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アメリカ大統領選、最新情報(2)

宮崎正弘氏のアメリカ大統領選取材、最新情報(2)である。



 トランプ陣営のアキレス腱は有能なスタッフと資金の不足
   これからの本番を闘うには共和党の集票マシンと豊富な軍資金が必要
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 小誌4916号(6月2日付け)への補遺として書く。
 トランプ陣営のキャンペーン主任は、キャリー・ルワンドウスキーという若者で、2014年に雇用された、
ポーランド系ユダヤ人といわれるが、詳細なキャリアと政治力量は未知数。

顧問にケビン・クレーマー、会計責任者がステーブ・ムニュチン。法律顧問はミカエル・コーヘン。いずれもワシントンの政界ではまったく無名である。つまり選挙のベテランではない。素人の集まりといわれる所以である。
後者のコーヘンは訴訟好きのトランプの裁判担当専門の弁護士である。

 そこでトランプは戦略アドバイザーに大ベテランで、ワシントンのフィクサーとして悪名高いポール・マニフォートを雇用した。
かれは1980年のレーガン勝利の舞台裏を仕切った。その後、パナマやフィリピン、ウクライナなど外国政府のロビィストとしても辣腕をふるった。

 ところが、トランプの帷幄にはいって、「選対本部をワシントンDC郊外へ移転するべきだ」などとマニフォートが助言を始めると従来のスタッフと激しく対立し、内紛が露呈するにいたる。

 トランプの選対本部はNY五番街57丁目のトランプタワーの中にあり、出入りが厳しく制限されているので、中の様子がわからない。同タワーの北側一階はティファニーが入っており、世界中の観光客で常にごった返している。
TIME誌が撮影を許可された映像をみると、トランプ選対本部の内部にはインテリアも何もない、天井剥き出しのオフィスに若いスタッフがコンピュータを叩いており、部屋の隅には等身大のトランプの写真と並べてドナルド・レーガンとジョン・ウェインが飾られている。
この配置はいかにもトランプらしい。

 さて予備選は5月26日のノウス・ダゴダ州でトランプが勝利し、獲得した代議員の合計が1238名(過半数は1237名)、これでトランプの指名は不動となった。

 残る問題とは何か?
第一に共和党内部の団結が早急に望まれることだが、共和党所属の連邦議会議員の間に支持が拡がらず、ライアン下院議長は「まだ共和党として正式な支持を決める段階ではない」とした。主流派はいまもトランプに冷ややか、ネオコンは反トランプ運動に回った。

もっともライアンは2012年大統領選で共和党候補だったミット・ロムニーの副大統領候補だった。かれは明らかに2020年の大統領選挙を狙っている。
 同期に最後までロムニーと指名獲得を争ったのはニュート・キングリッチ(下院議長、当時)である。
したがってキングリッチは、12年の予備選のシコリが残っており、はやくからトランプを支持する。


 ▼意外にもビリオネアが選挙資金不足に直面している

 第二の問題は「選挙資金」の枯渇である。
 トランプは個人資金で予備選をまかなってきたが、これからの本番を闘うためには5億ドル以上の資金が必要とされる。
 5月までにトランプの元にあつまった献金は2000万ドル程度と見積もられる。ヒラリーはすでに10億ドルを集めており、5月だけでもヒラリーは2億3000万ドルをあつめた(ちなみに2012年の予備選でロムニーは同時期までに、4億93000万ドルを集めていた)。

 つまり、トランプは共和党公認候補になると、各種共和党系のPACを通じて、本格的な政治資金を獲得できることになり、爾後の推移によっては財界、ウォール街からの巨額献金に期待を繋げる。

実際にトランプは二月に退役軍人の諸団体に約束した合計100万ドルの寄付さえ、まだ送金が半分しか出来ておらず、軍人諸団体から批判が渦巻いている状態となった。

 第三は各選挙区の情勢を勘案しても、1992年以来、共和党が必ず負けている州が18ある。
これらの選挙区では連邦議会選挙も民主党が圧倒的に強く、小選挙区制度の下で、共和党候補がトランプの応援を求めるという場面は、いまの段階では「想定外」のことなのである。


 ▼選挙戦術の修正が必要となった

 ここで予備選の経過を簡単に辿ってみよう。
 トランプは意外に周到な準備のあと、正式に出馬表明をしたのは2015年6月16日だった。
 一年後、大方の予想に反して泡沫候補が正式な共和党候補となる。

 しかし予備選でトランプが苦戦し敗退したところはテキサス、ユタ、オハイオ州などだった。
テキサスは強敵テッド・クル-ズの地盤、オハイオはケーッシクが州知事を務め、またユタ州はモルモン教の総本山、モルモン教徒であるロムニーが徹底的な反トランプのキャンペーンを展開した。

 当初、苦戦を予想されたフロリダ州は、そのときまでに5900万ドルを集めていた元州知事のジェブ・ブッシュと保守本流が強く推したマルコ・ルビオの地盤で、ともにいがみ合った為、党の団結ならず、トランプの独走を許した。
マサチュウセッツ州の元知事はロムニーで、当然、彼の地盤だが、トランプは辛勝した。アリゾナでも、「戦争の英雄ではない」と現職マケイン上院議員をぼろくそに批判したが、辛勝できた。
 インディア州での勝利で、トランプ陣営は勝利を確信するに到った。

 こうみてくると次なる問題とは何だろう?
 第一になさなければならないのは過激発言、放言、暴言の修正と、共和党内の有力者との対話、コンセンサス作りである。
 これをなしえるワシントン通のフィクサーが、まだ不在である。

 第二にイメージの修正が必要とされる。予備選の非難合戦を通じてトランプはカリスマ性をすっかりはぎ取られてしまったうえ、提言した政策の実現性が疑われているが、それよりも彼のいう「偉大なるアメリカの再現」というキャッチフレーズの具体案の提示が急がれるだろう。

 トランプ自らの著作『無力化したアメリカ』(『CRIPPLED AMERICA』、サイモン&シュスター社、2015年立候補宣言直前に上梓)を読んでも、具体的な政策は述べられてはおらず、大意次のような基本方針を明示しているに過ぎない。

 『旧来の政治家の真似をしたくはない。彼らは口先だけで何も実行しなかったではないか。ロビィストらの活躍による特殊権益で法が決められ、アメリカの偉大さは失われた。傾いた経済を立て直し、ヘルスケアを再編し、軍を強く再建し、敵が占領している様をみているだけの軍を戦争に勝てる強い軍に立て直し、教育をまともに再建し、雇用を増やす。偉大なアメリカを取りもどすことはそれほど難しくはない』と自信満々だ。


 ▼日本を敵視した姿勢はとうに薄らいでいる

 第三にトランプが貿易不均等、雇用を奪っているなどと強く非難してきたなかでも、敵性国家たる中国は別にしてドイツ、メキシコ、日本との外交上の問題点を明確化しておくべきだろう。
 トランプは「反日家」と喧伝されているフシがあるが、これは1980年代のことである。「貿易摩擦が吹き荒れ、親日派といわれたレーガン政権の下ですら、反日的な「スーパー301条」などが討議された。

 『トランプの真実』を書いたミカエル・ダントニオ(ピュリツアー賞受賞作家)によれば、「トランプの日本に対する敵意は薄まり、いまでは(貿易不均衡の相手)中国と(不法移民のメッカ)メキシコに置き換えられている」
 「日本は貿易戦争で地獄の笑顔を浮かべていたとトランプが当時発言しているが、二十年以上にわたる不況に陥り、また日本同様に敵視したOPECへの批判も失せた」(『THE TRUTH ABOUT TRUMP』、2016年版、286pから拙訳)。

 さて、これから党大会を経て、八月から本番が始まる。11月8日の投票日まで予断は許されないだろう。


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